カウンセラー倫理について

くれたけ心理相談室 生駒支部の古坂と申します。

八百屋では野菜や果物を、花屋では切り花や植木鉢を扱いますが、カウンセリングでは、目に見て手に触れることができない「心(感情や思考)」を取り扱います。壊れたり、汚れたりしても、誰もが一目瞭然と証明することが難しいこともあり、わからない故に、相手によって受け止め方は様々で状況によってはトラブルが発生しやすくもなります。
そのような難しいカウンセリングの中で、どのようなルールが必要か、それぞれのカウンセラーが考えておくことはとても大切です。今回、そのご参考にしていただけるよう道標を記させていただきます。

 

「カウンセラーの責任とクライエントの権利」

カウンセラーとクライエントの双方が、責任と権利について理解しあっておくことは、トラブル回避でもあり、お互いの信頼関係を築くことにもなります。カウンセラーの責任には、いろいろありますが例えば次のようなことです。

自分の価値観の自覚とその押しつけの戒め
相手を尊重しているようで、早期解決のため、つい意見を言ったりしてしまうなど、いつの間にか自分本位なカウンセリングをしている事例もあるかもしれません。

利益相反の気づき
カウンセラーとクライエント以外の関係を持つ(多重関係)ことは、混乱や正確な判断力を損傷するなど、カウンセリング効果へ支障をきたします。(例えば、上司が部下を面談する中で、カウンセラーと管理者の混同が起こることがあるなど)

能力の限界を自覚する責任
カウンセラーの行為は他者に影響を及ぼす可能性の自覚の上に立ち、自己の限界を知ることで、また研鑽に励んでいくことが大切です。カウンセリングを受ける側にも、もちろん権利があります。

説明を受ける権利
難しい用語ではなく、わかりやすく説明してもらう。これは、カウンセラーの責任でももちろんあります。

カウンセリングの中止を求める権利
カウンセラーの指示に従わないといけないと思われる方もいらっしゃるので、お伝えしておくほうがよいです。

個人の情報開示を拒否する権利
相談内容は個人情報がほとんどですが、全てをカウンセラーに打ち明ける義務はありません。

 

「法との関係性」

法とは、強制力が伴い罰則が伴う外からの規制として作用します。倫理は法よりも広い、人間生活の行動基準を示し内的な倫理観による行動管理です。もう少しわかりやすく言えば、倫理という大きな円(どのような行為が正しいか)の中に、法という小さな円(このような行為は正しくない)が入ってくるものです。法律に定められていない問題については、この倫理観の中で対応することで葛藤が起こります(倫理的葛藤)。

憲法(基本法)
社会生活からの観点でご紹介すると、第25条(国民の生存権、国の保証義務)、第26条(教育を受ける権利、受けさせる権利)、第27条(勤労の権利・義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止)、第28条(勤労者の団結権)といった「社会権」の4条項があります。

個人情報保護法
正当な理由なく信書を開封した場合は信書開封罪、正当な理由がないのに職務上で知り得た個人情報を他者に漏らした場合は秘密漏示罪などが問われます。クライエントの情報管理は、ただ保管だけではなく、そもそも保管することの同意や誤りの訂正なども含まれます。地方の条例もあるので、どこまでカウンセラーが担保するのか必要時には説明することが必要です。

その他
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等の関する法律」には、通報義務まではないですが、「児童虐待防止等の法律」では、虐待を受けたと思われる児童を発見すれば通報する義務(第6条)があります。
「高齢者虐待防止法」では、虐待とは、身体的虐待・ネグレクト・暴言などの心理的虐待に併せ、経済的虐待(お金を渡さない)も含まれています。
このように相談内容や相手によっては、法律と照らし合わせて判断することも留意する必要があります。

 

「倫理テストと倫理原則」

カウンセラー自身の倫理基準を考えるにあたり、関係する倫理理論をご紹介いたします。

倫理テスト(コモンモラル)
子どもの頃から「人を傷つけてはいけない」「人の物を盗ってはいけない」など、このような倫理は時代や地域を超えて、善悪の判断や行為の基盤として人類が共有すると考えられ、コモンモラルと呼ばれます。このコモンモラルによって、個人の行為が倫理的かどうかを判断するものが次の倫理テストです。

①黄金律テスト:宗教や国の文化の教えと一致するかどうか
②自滅テスト:誰もが同じことをしたら、その地域や文化は自滅するか
③権利テスト:他者をモラルの体現者として尊重しているかどうか
④可逆性テスト:逆の立場でも同じことをするか
⑤普遍性テスト:全ての人に同じ行為をするか、されるように望むか)
⑥タブロイドテスト:明日の新聞に掲載されてもよいか

倫理原則
①自律原理(自律や自己決定権を尊重する)
カウンセリングは、クライエントの自律を促進する援助をすること
②無危害原理(他者に危害を与えない)
カウンセリングは、クライエントに新たな苦痛や危害を加えるものであってはいけない
③利益供与原理(正義・公平の実現)
カウンセリングは、公正であって、人を差別することなく公平に扱う。
カウンセリングから利益を得る機会は均等で、全ての人に平等の機会がある。
※倫理原則は、原則同士がぶつかることがある。例えば、守秘義務はあるが危害を防止する場合、他者へ警告するなど。

 

古坂禄子カウンセラー

「倫理問題」

これまでの倫理に関わることを踏まえ、次の問題をどのように捉え、どのように行動するか、倫理テストなどにも当てはめてみながら一度考えてみてくださいね。そして他の方に説明してみてください。自分とは異なる考え方も見つかるかもしれません。

①クライエントのAさんが、海外旅行のお土産を持って来られました。価格は5000円くらいのものですが、「旅行に行けるように元気になったお礼として受け取ってください」と言われます。あなたなら、どうしますか?

②抗議を頼まれ、誰のことかわからないように、うつに悩むある人の話をしました。ところが、偶然クライエントBさんがいて、自分個人の秘密をみんなに漏らしたと責めてきます。内容は一般的なもので、どこにでもある話をしたつもりですが、あなたなら、どうしますか?

 

「倫理問題」は、各カウンセラー判断を尊重されており、明確な正解があるわけではなく、各カウンセラーが自覚を持ち判断することを尊重するものである。ということを付け加えておきます。

 

くれたけ心理相談室 生駒支部 古坂禄子
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