子どもに伝えたい〈三つの力〉 斎藤孝 著 を読んで
静岡県浜松市 青柳裕美カウンセラーのノートです。
子どもに伝えたい〈三つの力〉 生きる力をを鍛える 斎藤孝 著 を読んで
この本は子どもに伝えていきたい、生きる力として3つのコミュニケーション力の提唱がされているのですが、社会人として今からでもこの3つの力を意識することで強化できる部分もあると感じた為、以前に読んだものでしたが、今回もう一度確認する機会も含めご紹介させていただきたいと思います。
以下は三つの力についての抜粋、(要約部分あり)になります。
基本は <コメント力>、<段取り力>、<まねる盗む力>という三つの力である。
ある話を聞いて、的確なコメントをしたり、質問したりすることによって、コミュニケーションは活性化する。こうした力はスポーツの技術のように具体的に鍛えることができるものだ。これからは誰もが三つの力について、知識や技術を盗もうとすること、段取りを組み立ててもらうのではなく、自分でコーディネートしようとすること そして、頭の中で物事を整理し、それを人に伝えようとすること、これらは人としてすでに必要な力なのだ。
「生きる力」とは何か?ーーー真の基礎力を求めて
コミュニケーション能力や対話力はもちろん必要なものだが、少し具体的に支えている力を設定することによって力を伸ばすトレーニングメニューが考えやすくなる。質の高い質問ができれば、コミュニケーションの質も高まり、人のやっていることに対して的確なコメントができれば、そこから有意義な関係が生まれてくる。もちろん、心と心の共感能力は、基礎として必要である。しかし、それだけでは相手に伝わらない。的確な質問やコメントをすることが、コミュニケーション能力や対話力の向上といったスローガンを実現する手立てになる。
<コメント力>(要約力)
物事をかいつまんで説明する力のことであり、要約する対象とは文章である必要はない。むしろ「話すこと」がトレーニングとしては重要だ。
口に出して論理的に説明してみる練習が必要で、自分の言葉で端的に言い換える要約力を鍛えるのだという目的意識を強く持つことが大切だ。大量の散乱する情報の中から重要なものを選び出し、秩序立てて再構成するという作業は仕事をする上で重要な力である。
つねに相手の表現を要約できる力を基礎にしてコメントしていく。それが、クリエイティブな対話力である。要約力を、長い文章を短い文章に要約する力だと捉えるのではなく、多くの情報を自分なりに咀嚼し、自分の言葉に置き換えて短く表現できる力として捉えなおすことに意味がある。
(質問力)
相手の話を的確にうけとめたことを、質問の質によって示すという意識を持つことも現在の日本人に求められていること。日本では、聞くことが完全に受け身の立場にあると思われがちである。しかし、聞くことは、アクティブな構えでなければ本当に聞くことにはならない。的確なコメントや質問をその都度おりまぜることによって、対話に流れが出てくる。質問やコメントといったアクティブな応答を心掛けて聞く姿勢が本当の聞き上手ということではないか。聞くという受動性の強い行為の裏に、常にコメントするというアクティブな動きが張り付いている。こうした受動と能動が表裏一体となった構えを習慣として身につけていくことが、コミュニケーション能力の向上に繋がる。
<段取り力>
段取りとは、芝居などでの筋の運びや組み立て、あるいは事の順序や方法を定めること、くわえて心構えを工夫することなどを指す。「仕事の段取りをつける」というように、事を運ぶ手はずをあらかじめ整えておくという意味である。段取り力とは、言葉を換えれば、場を作る力である。ホームパーティーや飲み会など、どれほどささやかなものであっても、そうした何人か関わる場がうまくいくかどうかは取り仕切る人間の段取り力にかかってくる。自分から動いて場をしっかりと創っていく力、周りの人の動きをよく見て次の展開を予測し、自分がどう動けばいいのかいつも考えているということも求められ力としてあげられる。
段取り力を鍛えていく機会は、生活のさまざまなところにある。たとえば料理は、典型的に段取り力を鍛えるものだ。もちろん、いわゆる勉強の中にも段取り力を鍛えるものはある。しかし、料理やスポーツや芸事のような、実際にからだを使う技芸の場合は、よりはっきりと段取り力が鍛えられる。段取りなしに料理をはじめてしまえば、まずいものしかできない。しかも、からだを使った技芸においては、技が暗黙のうちに出来るようになるまで、技化するまで反復することが求められるので、反復練習のプロセスを通じて、同時に段取り力も鍛えられていくのである。今は何をすべきなのかという問題意識、良いものを作るために逆算しながら工程を組んでいく、最終的には、どこにたどり着きたいのかを明確に意識しながら、そのためには何が必要かを段取っていく。こうした段取りの意識の訓練は、スポーツをするにせよ、仕事をするにせよ、普遍的な力になる。
<まねる盗む力>
技を盗む意識の技化
まねる盗む力を<三つの力>の一つにしたのは、まずこれが三つのうちでもっとも基礎的な力であると同時に、日本の教育が見失った代表的なものだからだ。かつての徒弟制度では、技は言葉で教えられるというよりは、実際に見てからだで覚えて盗むものであった。「見習い」期間は、文字どおり見て習う期間であり「見取り稽古」という言葉もある。「からだで仕事を覚える」という表現は、言葉で説明されるのではなく、見よう見まねで試行錯誤しながら自分の技を身につけていくという意味だ。技を盗むつもりで見ていると、言葉では説明しきれない部分にまで認識力が働くようになる。これを「見ていれば自然に覚える」と表現する人もいるだろうが、私は、そのような技術はなんとなくではなく、認識されてこそはじめて身につけられると考える。
風景の重ね合わせの技法
自分が参加している場において、主催者側の立場に立ってマニュアル作りをしてみると、視野を大きく広げることになる。自分がもし教壇に立ったとすれば、どのように話をするのかということを意識させるだけでも、聞く構えはアクティブになる。自分が受け身側の一員であるのを脱して、全体をマネージメントする立場に半分身をおく訓練が、非常に重要な社会訓練となる。
「生徒の側から見える風景と教師(主催者)側から見える風景を重ね合わせる」
これを『風景重ね合わせの技法』とよんでいる。誰が一番効果的な学習をしているかという観点で場を見れば、それは教師がやっていることとできるだけ近いことを頭の中でやっている人間だということになる。
著者の斎藤孝氏は教育学、身体論を専攻、教職課程で中高教員の養成に従事されています。この本の中では現場で感じられた、「生きる力を育てるにはどういった方法論が必要なのか?」というところから書かれています。直接、カウンセラーとしてというよりは、社会人としての力について考察するよい機会になる部分もあると思いました。
「力や技がある分だけ、自由の幅もまた広くなると考える」という言葉に共感しました。コミュニケーション力をささえている少し具体的な力について、意識的になることで場の活性化に繋がるということ、生きる力を磨くという視点を持って、カウンセラーとしての日々の業務(カウンセリングの時間以外の部分も含めたやり取りなど)にあたることが、相互によい関係作りになると考えています。ご興味を持たれた方、是非本を手にとってみてください。
くれたけ心理相談室(浜松支部) 青柳裕美