クライエント理解のために

生物・心理・社会モデルから身体・心理・社会・実存モデルへ

心理カウンセラー 千村 孝峰(ちむら たかね)です。

私は、カウンセリングを行う上で、ビクトール・フランクルの実存分析を理論の礎として採用させていただいています。そして、その理論を基本とした、日本実存療法学会に所属し、国際実存分析療法士として活動しております。フランクルの実存分析については、詳しいことは、ほかに機会があれば述べさせていただきたいと思います。もし、興味のある方は、フランクルの著作をお読みください。最後に、何冊か紹介させていただきます。

今回は実存分析の考え方から、クライエントを理解する場合、どのような観点から行うのかを、紹介いたしたいと思います。

ところで、皆さんは「生物・心理・社会モデル」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。昨今、特にアセスメントの場面において被援助者を、これら三つのカテゴリーから理解していこう、ということが言われております。今年国家試験の始まる公認心理師の現任者講習においても、盛んにこの言葉が出てまいりました。「生物」とは有機体である人間の身体状況のこと、「心理」とは人間の心の動き、「社会」とは人間として他者と関わっている環境のことで、これらの各側面から一人の人間をとらえ、その上でその人の全体像を理解していこうというものです。

我々カウンセラーは、問題を抱えている人に対して関わろうとするとき、ややもするとその人の心理面の動向のみに目を向けやすくなってしまいます。私事で恐縮ですが、私は人工透析患者です。人工透析に入るようになる直前、抑うつ状態が強くなる経験がありました。腎疾患が重くなると気分の落ち込みがみられるものです。このような時、抑うつ気分をカウンセリングでどうこうというより、腎疾患の治療をしっかりすべきなのです。ゆえに、クライエントの理解について、生物的問題は何か、心理的問題は何か、社会的問題は何かということを、しっかりとアセスメントしなければなりません。そのうえで、我々がクライエントのどういった事柄を援助できるかを検討すべきではないでしょうか。

しかしながら、人間理解をするうえでこれら三つのカテゴリーで十分なのでしょうか。フランクルは、人間の「精神」を重要視しました。「心理と精神は同じじゃないか?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。フランクルは、「心理」と「精神」を分けて考えています。「心理」は、人間の生き物としての欲望や本能的なものと言えます。「精神」は、人間が他の動物とは違って持っている、生きがいや、使命感、アイデンティティをなどを指します。つまり、人間の存在を人間として実現たらしめるものが「精神」であり、これを「実存」と言うのです。とはいっても、「心理を」一段低く見るわけではありません。欲望や本能は生きる上で大きな力になります。「精神」もまた、人間であるからこそ持つことのできる大いなる生きるエネルギーなのです。ですから、従来の三つとともに「実存」というカテゴリーを加えて、「身体(生物)」「心理」「社会」「実存」の4面からクライエントを理解していこうとするわけです。

加えて、理解しようとするのはこれら4つの問題点だけではありません。そのクライエントが現在を生きていくための、資源(備わっている力や良い面)も探っていくことになります。また、そのクライエントが生きてきたうえで積み上げて潜在化しているものと、現在顕在化しているものも分けてみることも行います。こうすることによって、そのクライエントの人生というスパンで理解していくことも可能になります。

これは、自分自身を自己分析するのにも有効です。私自身を例にとって以下に述べていきます。

私の顕在化した身体的問題は人工透析です。顕在化した資源は、きちんと透析の通院が可能であること、潜在化した問題は、死ぬまでこれを続けなければならないこと、潜在化した資源は透析をしてても、それ以外は今までの生活を大きく変えなくてもよかったということでしょうか。

心理面では、顕在化した問題として透析で疲れるとやる気が起きないことがある。資源としては、それ以外は意欲的であること、潜在化した問題は、食欲を抑えるのに葛藤がある(透析患者は栄養面や水分摂取をとりすぎは禁止ですので)。資源は、そうした知識について教えてもらっていることでしょう。

社会面としては、顕在化した問題として、日常的に働けない。資源として自分のできる範囲で働くことは可能。透析患者会の活動もしている。潜在化した問題として、透析のことをまず念頭に置いて社会と関わらざるを得ない。資源として社会と隔絶せず、関わって生きていけている。

実存の部分としては、顕在化した問題は、現在は特にありません。資源として、こうして心理の仕事に少しでも関わり、社会に貢献したい気持ちがある。潜在化した問題として、将来の透析状態の悪化は常に心のどこかに不安としてあります。しかし、資源としてそれまでは、自分のなすべきことを精一杯していきたいと思っています。

文章で書くと、わかりにくいですよね。私が実際に使っている臨床の上での、アセスメント表があるのですが、著作権の関係で公にできません。ただし、個人で個別に使い、公にしないのであれば使用可能なので、興味のある方は個人的におっしゃっていただけたらと思います。

実存分析の実存とは、現実に存在するということであり、分析とはその実在する対象を理解するということです。こう言うと「実存分析」というのも、理屈っぽくなく捉えていただけるのではないでしょうか。

その理解する手立てが、「身体」「心理」「社会」「実存」というモデルなのです。

以上

参考文献

池見酉次郎(監修)、永田勝太郎(編集):バリント療法―全人的医療入門―.医歯薬出版株式会社,1990

フランクルの著作紹介

「夜と霧」「死と愛」みすず書房 「意味への意思」「それでも人生にイエスと言う」「生きる意味を求めて」(シリーズとして他にも著作あり) 春秋社、「人間とは何か」春秋社

他に、実存分析の実践家である永田勝太郎先生の著作もあります。「実存カウンセリング」「カウンセリング心理学」などです。

興味のある方は、検索してみてください。

千村カウンセラー 敦賀市

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