日本における外国人のメンタルヘルスサポートの必要性と目指したい世界
くれたけ心理相談室 大阪支部 村上法子と申します。
ひとりひとりがユニークでよくて、ひとりひとりがどこに誰といても自分らしく生きてよくて、
幸せを感じながら生きる
多様性をうけいれた世界は愛で繋がなり平和で幸せ
そんな世界を実現させるため「今」を未来につなげていくことが私の人生の目的
私は恥ずかしげもなく約 10 年前からこれを人生の目的としてずっと書き留めており、職場や環境が変わってもずっとどこかで覚えていたことです。何周もまわって、いまやっと、それを実現できる一歩を踏み出せたと感じています。留学/海外での就労経験、仕事上多国籍の方と関わってきた経験、日本語学校での就業経験から日本における外国人のメンタルサポートの必要性について考えてみました。
日本には永住者/特別永住者/労働者/留学生という在留資格で滞在している外国籍の方がいます。出入国在留管理庁の令和 5 年度 6月末時点での在留外国人数は 322 万 3,858 人となっており、(前年末比 14 万 8,645 人、4.8%増加)過去最高を更新しています。同時に家族滞在や日本人と外国人との間に生まれる子供たちも増加しています。遠くない未来には日本国内においての異文化接触が私達にとって日常的なことになってくると感じています。
そこで、今回心理職として注目して働きかけたいと感じていること 2 点に絞ってまとめたいと思います。
①外国籍の方を受け容れる側-(日本人)に必要な意識とよりよく環境を築くための心理的なアプローチ
②に受け容れられる側-(日本に入ってくる多国籍の人達)に必要な心理的・異文化適応サポート
はじめに
個人的に体験したことや観察から<郷に入れば郷に従え><出る杭は打たれる>的な集合意識が働き、①の受け容れる側は②の受け容れられる側に対して積極的/自主的に応変、受容していくよりも、②が①を受容し変化することを当然とし求める、という態度であることが多いように感じています。
多様性や異文化理解は先入観や否定にとらわれることなく双方が理解し尊重しあえるコミュニケーションが生まれる環境が必須だと考えます。
留学生
在留外国人は大きく留学生と労働者に分けられます。日本語学校では「日本が大好きで日本に住んでみたい」親日家で初来日される成人の比率が高いです。日本語学校は 1 学期が 3 か月間で最大 2 年間学べます。留学生の日常生活の悩みも学期が変わるタイミング(滞在期間)で変わってきます。
初期には日本語・勉強・生活への適応の問題が多く、中期以降になると母国と日本の文化の違いから生じる生活や人間関係での困難。特に理解できない/されない、という孤独感や無力感から自分自身のアイデンティティを失ってしまっているのではないか、という自信の喪失や自己価値の問題に発展してしまうケースもあります。このストレスから身体症状がでてしまうと不眠や鬱症状、無断欠席が続き不本意ながら退学帰国となってしまったケースもあります。
労働者
次に労働者の場合、日本語の習熟度や母国での資格により選択できる就業先が変わってきますが、日本で働く意味や条件により個人の抱えるストレスレベルが大きく違うように感じています。特に就労可能期間と職種が限定的で転職が困難、母国への仕送りをしている、在留資格の関係で母国での経歴と同等の職位や給与が得られない、多面的なギャップからくる心の葛藤や、母国の家族と今の自分の生活環境を比較して感じてしまう罪悪感やジレンマ、また過剰適応の結果心身がまいってしまう。
留学時期や就業前に体験した異文化不適応に苦しむ期間は一旦脱しているものの、労働者となった時期以降には、より個人の努力に比重がかかりプレッシャーとストレスが大きくなっているように感じられます。
主な異文化ストレス
〇異文化、異言語の中での葛藤や混乱 〇異なる習慣や生活様式からくる不適応
〇対人コミュニケーションによる葛藤 〇会社文化/職場における上司や同僚との葛藤
〇母国に残してきた家族の心配 〇限定的な生活環境の中での孤立/孤独
① 外国籍の学生/労働者を受け容れる側にどのような働きかけ/環境が必要か
外国籍留学生/従業員を受け容れる各種学校/企業で働いている方へ:
* 無意識レベルで行ってしまっている同化の強要や画一化が当然という意識や企業文化がないか。
* 国籍・宗教・肌の色・その他ステレオタイプや先入観による区別や断定はないか。
* お互いを理解・尊重しようとするコミュニケーションがなされているか。歩み寄りの姿勢はあるか。
* 違いを排除/否定/拒否/無関心のまま放置していないか。
* 受け容れ側として外国人との関わりの中で何が負担やストレスとなっているのか明確化できているか。
* 組織人としての対応、個人としての気持ちや対応に差をつけなくてはならないことへの苦しみがないか。
* 可能であれば母語(または通訳同伴)で安心して相談できる場所を準備することができるか
心理職として外国人の受け入れ企業に携わる機会があれば、理念や頭では理解できているはずの<相互理解・尊重・コミュニケーション>が本当に機能しているのか、「分かっているけど・・・」「不本意だけど・・・」の先にある課題やブロックを見つけるサポートをし、そこから組織としての現実的側面の根本原因・システムの改善や、具体的なサポート体制の構築のヒントや外国人との対話に繋がるコミュニケーションの方法を見出すための一助となりたい。
② 外国籍の学生/労働者として受け容れられる側にどのような働きかけ/環境が必要か
* 可能であれば母語(または通訳同伴)で安心して相談できる場所があることを当事者に認知してもらう。
* 異文化生活の中で何がストレスや生活困難になっているのかの具体的原因をみつける。
* 違いを排除/否定/拒否/無関心のまま放置していないか。
* お互いを理解・尊重しようとするコミュニケーションがなされているか。
* 来日前/来日後、就業前/就業後のギャップが苦しみの原因となっている場合、順応可能か原因をみていく。
* 自分の個性や母国の文化を維持しつつ、日本の生活様式や日本人の思考を受け容れる意識や準備はあるか。
心理職として日本在住の外国人に携わる機会があれば、可能であれば来日初期段階の異文化不適応時期へのサポートを提供したい。
滞在期間が長期化し現実的に日本語の理解レベルが上がることと比例して異文化や思考が徐々に受容できる適応時期に移行するので、それまでの最初に一番苦しいと感じる時期に母語(または通訳同伴)で安心して不安や悩み事を吐露できる環境を提供したい。
併せて、外国籍の方に対応するカウンセラーとしては、以下の点についても継続的な学びが必須と感じている。
〇人種/文化/民族/ジェンダー/個人に対するフラットな価値観と背景の理解。
〇言語バリア-母語でない方と英語で話す場合の限定的な語彙の使用によるセッションからの真意の正しい理解。
〇人種/国籍/宗教/近隣地域/学校など必要に応じて適切な援助が提供できる自助コミュニティーの把握。
まとめ
外国籍の労働者や学生に関わる企業や学校(もちろん個人も)がそれぞれの立場で異文化に対する個人の個性や文化や宗教からくる心理的な状態や行動、そして○○人、というくくりだけではない「その人らしさ」を理解することで、職場や学校が友好的で健全なコミュニケーションのとれるコミュニティーとなれば愛で繋がなり平和で幸せな世界へ一歩ずつ近づいていくと信じています。
くれたけ心理相談室 大阪支部 村上 法子
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