レジリエンスのメリットと強化法
くれたけ心理相談室 高崎支部の高瀬 和枝です。
<はじめに>
近年よく、レジリエンスという言葉を耳にします。「回復力」「弾力性」を意味しますが、心理学においては困難な状況やストレスを乗り越え、適応していく力を指します。レジリエンスは1970年代頃からアメリカの心理学者ノーマン・ガーメジーらによって研究が進められ、注目されてきました。例えば「心理職の人にとって有益な情報を提供せよ」というミッションを与えられ、「私の知識なんてみなさん知っていることだ」「次はどなたに託そう」というプレッシャーや不安を感じたときどうするか―信頼できる人に相談し、「なんとかなるだろう」という楽観性、「テーマさえ決まれば書ける」という自信をもって乗り越えようとする。これがレジリエンスです。
もともと人間に備わっている力ではありますが、人生の各段階、性別、遺伝などによって変化し、意識して強化できるものでもあります。私たちがすべてのストレッサーを避けることは不可能であるため、レジリエンスを高めることには大きな意味があります。
このレポートでは大人と子どもに分けて、レジリエンスについて詳しく見ていきます。
Ⅰ 子どものレジリエンス
1 なぜ重要なのか
2 どうやって強化するか
Ⅱ 大人のレジリエンス
1 寿命に大きく影響
2 どうやって強化するか
Ⅰ 子どものレジリエンス
①なぜ重要なのか
レジリエンスは失敗と回復を繰り返した末に、長い時間をかけて育まれていきます。過去の出来事や成功体験から学んできた大人とは違い、子どもにはそのベースがありません。そのため、子どもの頃にレジリエンスを育成することはひじょうに重要なのです。子どもが困難に直面したとき、大人が過剰な手助けをすると、レジリエンスの育成を阻害するおそれがあります。例えば子どもが虫に対して残酷な扱いをした場合、頭ごなしに叱るのではなく、見守ることが大事です。子どもは命に直接触れることで学びを得ます。
②どうやって強化するか
子どもの欠点や失敗を受け入れ、子ども自身が問題を解決する機会を与えるようにします。例えば子どもが友達とけんかしたとき、悲しさや怒りなどの感情を認めたうえで、「どうしたら仲直りできるか」を考えさせます。このように子どものレジリエンスを育むには、大人ができることがいくつかあります。以下にポイントをまとめました。
共感:子どもの気持ちを理解し、寄り添い、自己肯定感を高めます。
ポジティブ思考:失敗しても前向きに考えるよう教え、努力や過程も認めてあげます。
セルフケア:ストレスの発散や気分転換の大切さを理解させ、一緒に方法を考えます。
SOSの発信:支援を求めることを教えます。困ったときに頼れる人がいる安心感を持たせてください。
コミュニケーション:「わからないことは質問する」「問題が起きたら報告する」習慣を身につけさせます。それには、ふだんから自由に会話できる環境作りが欠かせません。「応援されている」「大事にされている」感覚を子どもが持てることも大事です。
見守り:自分で考え、行動することができるよう、すぐに答えを教えたりやってあげたりしないことです。子どもの意見を尊重したうえで、問題解決に導きます。
Ⅱ 大人のレジリエンス
①寿命に大きく影響
国際的な学術誌『BMJ Mental Health』に2024年に掲載されたある研究によると、心理的レジリエンスが高い人ほど、死亡リスクが低下することが確認されました。この調査は50歳以上のアメリカ人に対して行われ、まず参加者を精神的なレジリエンスのレベルに応じて4つのグループに分けました。その結果、最もレジリエンスの低いグループと比較すると、最もレジリエンスの高いグループは、その後10年間で死亡する確率が53%も低かったのです。
このように、レジリエンスは寿命に大きく影響することがデータで示されました。心身の健康や幸福感を高めるには、いかにレジリエンスが重要な役割を果たしているかがわかります。
〈参考〉楽観性と悲観性について
レジリエンスを高める要素のひとつに楽観性がありますが、日本人は他国民と比べて悲観的であることが知られています。そこで、参考資料としてふたつの調査結果を紹介します。ただし、国の経済状況や政情なども回答に影響すると思われ、これだけで国民性を裏付ける十分な材料とすることはできないと思います。また一方で、悲観性は完全に否定されるべき性質ではないと私は考えます。見方を変えれば、悲観傾向にある人にも「他者の立場で物事を考えられる」「慎重」など、いい面もあるからです。
1.フランスの調査会社イプソスが、2024年から2025年にかけて30か国の人を対象に、幸福度についてアンケートを実施。「幸せ」と答えた日本人は60%で27位。
2.同社はまた、意識調査を2024年に33か国で実施。それによると「来年は今年よりも自分にとって良い年になると楽観している」と答えた日本人は38%、8年連続で 最下位。「世界経済は今年より来年のほうがよくなる」とした日本人は28%で31位。
②どうやって強化するか
レジリエンスを高めるためのポイントは、以下のとおりです。
自己認識:自分の感情や反応を受け入れること。気持ちを書き出したり、人に話したりすると客観視しやすくなり、感情の整理ができます。
自己効力感(セルフエフィカシー):「自分にはできる」という自信を持つこと。過去に失敗から立ち直った経験や他の人のやり方から学ぶこと、また人から励まされることで、高めることができます。
問題の共有・支援の要請:家族や友人、または心理カウンセラーに相談すること。孤立を防ぎ、解決への糸口が見つかります。
目標設定:現実的な目標を設定すること。達成することで成功体験となり、自信を取り戻すことができます。行動に移すことが大切なので、できることから始めます。
セルフケア:ストレス軽減と健康的な生活を心がけること。深呼吸、適度な運動、瞑想などを取り入れ、趣味の時間を持つなどしてストレス解消を図ります。また、規則正しい生活を心がけ、健康に気を配ることも大切です。大きな病気はレジリエンスを下げる要因になりえます。
楽観性・柔軟性:ミスを受け入れ、完璧を目指さず、未来に視点を置くこと。逆境にあっても希望を持ち、固定観念に縛られない自由な発想力を養うことで、困難に立ち向かう力がつきます。
おわりに
人は誰でも、いつ困難な状況に見舞われるかわかりません。強いレジリエンスをもってそれを克服できるのであれば、ぜひとも強化したいものです。人生100年と言われる時代。ストレス社会を生き抜き、充実した日々を送るために、ときには意識してレジリエンスを高めることが大切です。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。
くれたけ心理相談室 高崎支部 高瀬 和枝
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