「 技芸(アート)としてのカウンセリング入門 」要約
吉田弘希カウンセラーの読書ノートになります。
技芸(アート)としてのカウンセリング入門 杉原 保史著 要約
<はじめに>
著者は、カウンセリングを技芸(アート)として見ており、音楽や演劇やお笑いなどのパフォーミングアートの一種だと考えている。カウンセリングにおいて、科学的研究は軽視するものではないが、実践で決定的なものではない。しかし近年は、科学的側面ばかり取り上げられて、技芸的側面が無視されがちである。著者は、両方の側面に注目されることを願っている。
第1章 カウンセリングとは
「カウンセリングとは何か」という問いに対して、「カウンセリングとはこうするものだ」という答えは、カウンセラーの援助のリソースを休眠させる危険性がある。クライエントがより生き生きと豊かに生きられるよう援助できるなら、何をしたっていい。
カウンセリングで目指すものを一つ挙げると、「面接の今ここでクライエントの体験を促進する」ということになる。例えば、過去の恐怖に対して、まずは落ち着いて十分に体験する、怖すぎるなら落ち着いてじっくり体験できることを援助する。カウンセリングは体験的なものであり、「気づく」こと、「理解する」ことは重要な目標としない。「情動を伴う洞察体験」よりも「洞察を伴う情動体験」を提供する。情動や感情や思考にオープンでありながら、それらに支配されたり言いなりになったりするわけではない、そういう構えの確立を目指す。
カウンセラーはクライエントの体験を促進するために言葉を使用するが、最も重要なのは声である。カウンセラーは、声のピッチ、リズム、テンポ、間、抑揚などに対する感受性を高める必要がある。
クライエントを援助するには、他の働きかけに先行して援助的な人間関係が形成されている必要がある。目の前のクライエントをよく見て、柔軟かつ創造的に関わることが大事である。
第2章 カウンセラーの聴き方
カウンセリングでは話を聴くことが大切にされてきた。まずよく聴けるようになってから、話を聞く以上の関わり方をする。
カウンセラーの聴き方は、下記の8つの特徴がある。
(1)ありのままに聴く
クライエントに何かしてやろう、聴きながら何か反応してやろうというとする構えを無くす。
(2)がんばらないで聴く
集中はするが、力みなく、心を自由にして、ただ聴く。考えるモードではなく、感じるモードで聴く。
(3)体験を聴く
事実関係より、クライエントの内的体験を聴く。
(4)無知の姿勢で聴く
クライエントの体験はクライエントにしか分からない私的な世界なので、決めつけをせずに聴く。そうするとクライエントが内面に目を向けやすくなる。
(5)声を聴く、様子や態度を聴く
話の内容だけではなく、声、表情、視線、姿勢、態度、話しぶりから伝えられるメッセージを受け取るように聴く。
(6)問題を解消しようとせず、問題を味わうように聴く
クライエントが語った問題の中に、十分にとどまりじっくりと味わう。反射的に即座に解決しようとする姿勢を見せず、穏やかに落ち着いた態度を示して、クライエントにモデルを示す。
(7)優しく穏やかに聴く
クライエントに気づきを強要して、苦しめるようなことをしない。優しいまなざしを向けて気づくこと、穏やかに気づくことに価値がある。
(8)即座に慰めずに聴く、「目覚めさせる体験」を目指して聴く
痛々しい経験を聴いて、即座に慰めを与えるとき、それは誰の気持ちを楽にするためのものか、クライエントの本質的な助けになるのかという問題がある。
慰める代わりに、「目覚めさせる体験」を目指すようにする。「目覚めさせる体験」とは、つらい体験を真摯に受け止め、ありのままを受け止めることが大きな成長の契機になるような体験のことを呼ぶ。
第3章 マインドフルに聴く
カウンセラーには、マインドフルネスという言葉で表される態度を養うことが有用である。マインドフルネスを体得するために、何もしないことを学ぶエクササイズを行うことが有効である。日常生活においても、今感じていることを丁寧に味わうことでエクササイズと同様の効果がある。
心を自由にして、どのような心の動きも生じるがままにし、今ここにただ存在し、ただ聴く。そういう態度をカウンセラーが身に着けるのに、マインドフルネスの実践は役に立つ。クライエントに接してカウンセラーの心に生じたことは、カウンセリングに役立つ可能性がある貴重な資源である。
第4章 応答技法について
あいづちに関してまず大事なのは、「どこであいづちを打たないか」であって、ひっきりなしにあいづちを打つと肝心なところのあいづちの効果がゼロに近づいてしまう。次に大事なのは声で、あいづち自体は意味を持たないので、どのような声で言うかという要素の比重が高くなる。
単純な反射(オウム返し)も適切なポイントで行うから効果がある。クライエントの感情、体験、キーワードと思えるようなところで行う。
オウム返しするだけではなく、カウンセラーがクライエントの感じたことを感じ取ろうと努力して、自分の言葉で伝えることを、喚起的な反射という。クライエントの話の底にある情感を喚起する効果がある。カウンセラーが生き生きと反応しながら話を聞けないと、良い傾聴とは言えない。
クライエントの発言内容の要約について、長すぎる要約は要点を分かっていないことを伝えているようなものである。簡潔に、カウンセラーが大事だと思ったところ、注目したいところを伝える。
クライエントがはっきりと言葉にしていない感情を、カウンセラーが明瞭にしてフィードバックすることを感情の明瞭化という。カウンセラーの解釈、暗示的な誘導、感情の形成の側面を持つ。カウンセラーの観察、共感が細やかなほど、大きな効果を持つ。
「もう少し聞かせてください」といった、オープンな投げかけで離すことを促すことを、非指示的リードという。分からないことの確認にも使用されるが、もっと重要なのは、クライエントが話をためらっていると思われるポイントで使用して、その話をしても大丈夫ですというメッセージを伝えることにある。
質問はクライエントから必要な情報を引き出すものである面もあるが、もっと大事なのはクライエントの注意を方向づける介入であることである。クライエントの注意を向けるものであることを理解する。基本的にはイエスノーで答えられない、オープンな質問が有効である。また、クライエントの言動の「なぜ」を解明するのがカウンセラーの仕事なので、「なぜ」という疑問詞を使うのは、あまり有益ではない。
オーソドックスなカウンセリングでは、指示や教示はしないものが多い。するのであれば、十分に話を聞いて、見通しを持ったうえで内的な体験に触れていくことを求めるものが挙げられる。
カウンセラーが完全に自己開示をしないでいることは不可能であり、難しさを孕んでいるがクライエントを助けるポテンシャルも持つ。カウンセラーの自己開示は、クライエントに役立つことを目指すことが必要である。自己開示をした際は、自己満足に終わっていないかチェックする。また、クライエントに自己開示を求められたときに、答えるにしろしないにしろ、質問の背景にあるクライエントの心の動きについて、注意深くモニターする姿勢を持つ。
第5章 カウンセラーの声、呼吸、姿勢
カウンセラーの事例検討会で、カウンセラーがどのような声で言ったかはあまり取り上げられないが、声が人に与える影響は大きい。普段から自分の声に関心を持ち、表現力を高めるよう取り組むべきである。
声の表現として、声の大きさ、声の高さ、速さ、間、声色、抑揚の6つがある。速さとはそれぞれの言葉を早口で話すか、ゆっくり話すかということで、間というのは言葉と言葉の間にどれくらいの空白をとるかということである。声色とは、猫なで声、硬い声、だみ声などを指す。これらについて、普段の生活から注目しておく。
声のかなりの部分は、体から出ている。体をリラックスさせることで豊かに響く声、穏やかで深い声を出せる。
落ち着いて穏やかにクライエントの話を聴き、穏やかに自分の心の声を聴くには、深い呼吸が助けになる。また、深い声を出すためにも必要である。
カウンセラーは座っていることが多く、腰痛を患う人も見受けられる。クライエントの話を聴くときに、姿勢を長時間がっちりと固めてしまうと、浅い呼吸と平板な声をもたらし、情動の幅を狭めてしまう。姿勢に対する感受性を高めておくことが必要である。
第6章 カウンセラーの話す技術
たとえカウンセラーが一言も発しなくても、カウンセラーはクライエントにメッセージを発しているし、影響を与えている。同じ内容の質問であっても、尋ねかたによってクライエントに伝わる影響は変わる。言い方の工夫は、レトリックと呼ばれる領域で研究されてきた。
カウンセラーの言葉の概念的な内容を焦点メッセージといい、言い回しやタイミングなどニュアンス的に伝わるメッセージを、メタ・メッセージという。このメタ・メッセージに対する感受性を高める必要がある。
具体例として6件ほどを挙げて、クライエントの主訴を疑うような言い回し、不安を煽るような言い回しを避け、思いやりや温かみ、力強さや励ましを伝えられるようにする。
第7章 クライエントの心理における不安の働きを理解する
人は、不安を感じる事柄については、反射的、自動的、習慣的に気づかないようになっている。カウンセラーは、クライエントが「何に不安を感じ、何を恐れているか」を述べることができるという前提に立つべきではない。最も肝心な心の動きは、クライエントの話の内容には出てこないことが多い。クライエントの不安は常識的な見方では計れないことがある。
クライエントの話、声の中に、真実味が無い感じがすることに敏感に気づけるようにする。心を自由にして、クライエントの存在全体に感受性を向けて聴くことが大切である。
第8章 カウンセリングの限界と広がり
カウンセリングは唯一絶対の援助ではなく、カウンセリング中に生じるクライエントの改善の約40パーセントが、カウンセリング外の要因であると述べる研究者もいる。カウンセラーは独善的にならないよう注意が必要である。クライエントの生活の中には多くのリソースがあり、それらのリソースに頼りつつ、活用できるようクライエントを援助するべきである。
カウンセリングを受けて状態が悪化するクライエントがいる。10人がカウンセリングを受けたとして、6~7人は改善し、2~3人は変化がなく、1人は悪化するという統計がある。カウンセラーはこうした問題を認識し、研究し、できる限り避ける努力をしなければならない。
カウンセリングで改善しない場合は、他の援助に委ねるという選択もできる。カウンセリングでなくても、苦悩する人を少しでも楽にするようなものはよいものである。カウンセリングの専門家が持つ知識や技術や経験でさえ、人の心の奥深さ、複雑さの前では不十分なものでしかないことを、カウンセラーは心に銘記しておくべきである。
・技芸(アート)としてのカウンセリング入門 杉原 保史著
ご興味を持たれた方は、ぜひ手に取ってみてください。
くれたけ心理相談室 OG 吉田 弘希カウンセラー