徳田幸絵カウンセラー

 徳田幸絵(滋賀支部責任者・名古屋本部所属)

共感って? ~心理カウンセリングと音楽療法との違いから考える~

1.はじめに

音楽療法とは?

「音楽の持つ効果を活用して、クライエントの抱える問題を改善するもの」であり、療法においては常に“共感的・受容的態度”が重要

ただ、問題は…

「共感する対象が二者ではなく、三者(クライエント・音楽療法士・音楽)であるがゆえに、「共感」する対象が“音楽療法士(以下MT)のクライエントの背景への共感”なのか、“クライエントの演奏する(or聴取する)音や音楽への共感”なのか、“クライエントが音楽に共感すること”なのか、明確に区別することが難しい。

→「共感」への対象が混沌とするために、音楽療法における“共感”を体系的に理論づけることを妨げているかもしれない。

2.心理カウンセリングにおける“共感”とは

カウンセラーの基本的態度(ロジャーズ)

「無条件の肯定的受容」「共感的理解」「自己一致」

「共感」はこの態度のうちに重要な要素の一つ 「共感的理解」・・・「あたかもその人のように という態度を失わずに(クライエントの感情に巻き込まれることなく)、クライエントの私的世界を自分自身も感じる状態」→この定義は「クライエントの独立性」が強調されている

3.音楽に対する“共感”とは

音楽に「共感」する・・・個人にとって身近な経験

(1)心理カウンセリングの“共感”との違い

・音楽に「共感する」・・・ヒトではない“芸術”に対して共感する点 “具体的には…たとえば、ある音楽作品を聴いて怒りを感じるとき、何に対して怒っているのかがよくわからない感じを抱く。それは作曲家に対してとも言えるし、自分自身に対してとも、神に対してとも考えられる。これらのどれであったとしても、現実生活においては、自分の身の回りの事象にただちに制約や不合理を導くことはない(スロボダ)”

“どのように音楽を解釈し、それが勝手な思い込みであろうと、実生活には支障がないため「気軽に」共感できる。

(2)音楽への共感、感情移入  カタルシス(浄化)論(アリストテレス)

“私は意気消沈しているとき、この<特定の曲>を聴き、できるかぎり落ち込み、それから泣く。心の底から泣く。私は自己憐憫にふけり、自分の体からすべての陰気な気分を浄化する。それから私は目を乾かして、顔を洗い、髪を整え、新たに化粧をして、そして世界に再び加わるのだ。(アリストテレス)”

4.音楽療法における“共感”とは

音楽療法:「MT」という他者の介入が存在する。クライエント、MT、音楽・・・三者の関係が必須のため、「共感」の対象が漠然としやすい。

<MT(音楽療法士)への質問>

Q「音楽療法実践の初期段階に、クライエントに共感するために行っていることは何か」

A.「クライエントの演奏する音楽、特にテンポやリズムに同調するように心がけている」
→クライエントの奏でるテンポに合わせてMTが演奏を入れると、(クライエントが)安心感や受容されているという感覚を伴う
→音楽療法の現場では「クライエントの出す音・音楽に同調することが共感と同義にとらえられている」
→MTがクライエントの音楽に一体化することを目指す
→クライエント側からすると、自分の出す音・音楽の影のような形でMTが存在する
→MTの他者性を感じることなく、音楽に感情移入できる(MTの存在を意識することなく、音楽に没頭)

一方、心理カウンセリングにおける共感的理解は…
「クライエントとカウンセラーの“独立性”を前提」とする。⇔音楽療法:初期の段階で、むしろその“独立性”を取り払い、一体化を目指すように
心がける。

5.音楽療法での転移や投影

*クライエントの転移の矛先は、MTよりも“音楽”や“楽器”に向かう(アルヴァン)。葛藤感情をMTに投影するかわりに、クライエントは楽器および自分の作り出す音に投影する。

6.音楽療法のその後の展開

素朴な疑問…

Q.音楽療法の初期の段階で、クライエントと一体化を目指した後、その後もそのままのアプローチでよいのか?弊害はないのか?

A.「十分に同調する期間を設けた後は、リズムやテンポをずらすアプローチを行う」→そのことによって「MTの存在への気づき」を促す→クライエント、MTの独立性へそして、クライエントの自己の確立や、実社会におけるコミュニケーションへの還元を目的とする(ゴール)。

しかしながら…この段階でもやはり“音楽を介して”のアプローチでも、それがメリットになることもある!→<音楽を介してのアプローチのメリット>乗り越えがたい葛藤や対人関係に問題を抱えるクライエントの場合、

MTとの直接の共感関係を築くことは困難であるが、音楽を媒介することによって、MTの音や音楽が受け入れられ、場合によってはその“不一致”を楽しむこともできる。→MTは、“音楽”というツールを用いて、コミュニケーションの円滑化を目指す。

ただ、(メリットはあるが)ゆくゆくは…音楽を介さなくとも日常生活で汎化できることがゴールということから考えると…

【課題】

クライエントの対人関係や自己の確立に汎化されること

【考察】

クライエントの課題内容によっては、初期の段階で音楽療法によるラポール(一体化)の確立をした後に、言語(カウンセリング)によるラポール(独立性を前提とした)を築くという流れで進めていくことが、クライエントの対人関係や自己の確立へ汎化されると考えられる。(クライエントの段階に応じて、音楽療法と心理カウンセリングをうまく使い分ける)

~まとめ~

◆それぞれの「共感」の特徴

心理カウンセリング音楽音楽療法
共感の対象:人共感の対象:芸術(人ではない)共感の対象:曖昧 
クライエント、MT、音楽の三者関係が必須
特徴:
1 クライエントと同一化せずに「客観的」に想像する
2 クライエントとカウンセラー 「独立性」
特徴:
1 共感≒感情移入、一体感 没頭、投影etc
2 「自己完結型」の共感
特徴:
1 初期:クライエントと同じテンポ(「同調」)→安心感・受容≒「共感的理解」(ロジャーズ)に近い
2 心理療法の共感:独立性が前提に対して音楽療法の共感:「一体化」を目指す
3 初期段階→リズム・テンポをずらす→不一致

参考文献

1. Kenneth E.Bruscia(生野里花他訳),即興音楽療法の諸理論(上),第一版,人間と歴史社,1999.
2. 澤田瑞也,カウンセリングと共感,第一版,世界思想社,1996,p11.
3. 角田豊,とらえ直しによる治療者の共感的理解とクライエントの共感性について,心理臨床学研究
,13-2,1995,pp145-156.
4. Patrik N.Juslin&John A.Sloboda ed.(2008),p330.
5. 今道友信他 訳,アリストテレス全集17,第三版,岩波書店,1989,p29.

文責:徳田幸絵

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